数少ない友人にBTS(防弾少年団)から見た日本と韓国について喋った。そして、家に帰っても、ぼくの頭は久しぶりに、BTSとその周辺に埋め尽くされ、考えがあれこれする。
そのとき、ひとつ思いつき考えたこと、それを今回書いておこう。
考えたことは、ぼくが韓国を扱うなかで主軸として何度か書いたことのある、徴兵制についてだ。
韓国では特別な理由がない限り、男子全員に徴兵制が課せられる。現状、BTSも免除されない。
朝鮮戦争が未だ休戦としてあり、歴史的瞬間として記憶に新しい2018年の板門店宣言を経てもその進捗はない。ここ最近では、北朝鮮側からまた、板門店宣言以前に戻ろうときているようにも見える。両国の行末はいささか不透明で、この状況が終わらなければ、韓国の強制的な徴兵制も終わることはないだろう。
BTSに関しては、まだ徴兵されたメンバーはいない。最年長のJINの招集が今年ではないか、というニュースも多々あり(制度的にその指摘はおそらく正しい)、その点が多くのファンならびに、BTSに注目しているひとびとの不安や好奇心を刺激している。
しかし、どのみち彼らはいつか招集されるだろう。であるなら、ぼくはその招集後、BTSがどんな音楽を作るのか、それに興味がある。
おそらく、おおくのひとびとは、アーティストやアイドルと呼ばれるひとに、世界平和的な態度を期待している。そして、演者側もその態度を示していることが多い。昨今、多くの意識を促しているBlack Lives Matterについても、BTSは日本円で1億円以上の寄付を表明していることから、彼らも平和に関心が高いことが窺える(この件に関して、Yahooニュースのコメント欄では案の定、原爆騒動が槍玉に上がっていた。ぼくはその反応自体に批判も否定もしない。しかし、彼らの背景も考えなくてはいけない。それは、K-POPはブラックミュージックから影響を受けている、ということだ。彼らがこの問題に意思を表明したことは、背景からして矛盾はない)。
では、徴兵というシステムのイメージはどうだろうか。
BTSのメンバーが招集され、どのような役割を果たすかはまだわからないが、例えば海軍、陸軍だったとして、彼らは火器の使用を経験することになるだろう。
この経験に、ぼくら、強制的な徴兵制をもたない日本人は、どんなイメージを湧き抱くだろうか。ぼくの所見を正直に言えば、乱暴で危なっかしい、というイメージを抱く。もちろん、BTSに表立って暴力性を出しているメンバーはいない。しかし、徴兵制というシステムには、非常に強いイメージがつきまとう。強制となれば、なおさらだ。
ここまでの話をもとに下に進もう。
ぼくは先に、招集後、彼らがどんな音楽を作るのかが気になる、と書いたが、その好奇心はこの徴兵制がもつ強いイメージからきている。
アーティストやアイドルが平和を象徴すると考えて話を進めるが、そのとき、徴兵を経たBTSはその平和であることの象徴を、少しばかり変えなければいけなくなるのではないか。
平和であることの象徴、それが、わたしたちはだれも殺さない、ということであるなら、徴兵制がもつイメージは、その象徴とは逆行する。
強制的な徴兵制をシステムとしてとるということは、万が一のときの兵士をストックするということ。それは、もし、万が一のことである戦争が起きた場合、韓国の男子はアーティストだろうがアイドルだろうが、戦場に赴かなければいけなくなる。そのとき、守るもののために、人を殺すだろうし、人に殺されるかもしれない。
BTSが兵役を経るということは、その現実味がひとつ上乗せされるとも言え、彼らは万が一のストックとして数えられることになる。それと同時に、BTSの背景が少し変わるだろう。もう、戦争や軍という組織を知らない少年では、いられなくなる。
そのとき、彼らは何を歌うのだろう。何を表現するのだろう。少年としての世界平和はもう表現できないかもしれないが、もちろん、平和そのものは主張されるだろう。そのとき、表現される平和は、兵役を経た個人としての平和になるのかもしれない。
具体的にいうならば、平和が壊れれば、ぼくたちは誰かを殺すことになるかもしれないし、殺されるかもしれない。そんな世界はきてはいけない、というあまりにリアルな平和が歌われるかもしれない。
K-POPアーティスト、アイドルの男性に関しては、徴兵制がひとつの障害になっている。 がしかし、ぼくが先に書いた、リアルな平和を望む声を表現できる。それは、「K」だからできる「POP」のひとつの魅力なのかもしれない。
今回は、BTSを中心に書いたことだが、おおくのK-POPアーティストやアイドルのなかには、すでに兵役を終了し芸能活動を再開させているひとたちもいる。そのひとたちの表現物が招集前後でいかに変化したか、それを見るのも面白そうだ。
追伸 2020年6月17日更新
昨今の北朝鮮と韓国の関係悪化は、さまざまな憶測を呼び起こしてくる。もし最悪のばあい、隣国として日本も大きな影響を受けることになるだろう。そのとき、いや今このとき、K-POPアーティストとアイドルがいかなる世界的な役割を担うのだろうか。
ぼくは、その役割に大いに期待している。男子に限られてしまうかもしれないが、彼らは、ぼくら日本人が、現実味をもって表現しにくいことを、表現できる。
ただし、ひとつ懸念することがある。これはぼくの肌感覚でしかないが、韓国は日本と比べ、芸能と政治の距離が近いように感じる。これが、いかなるノイズを与えるのか、それも考慮したほうがいいに違いない。